Access Accepted第670回:例年とは大きく違った2020年の欧米ゲーム業界を総括する

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 新型コロナウイルス感染拡大の影響で,日常生活が激変した2020年。多くのゲームイベントがオンラインになり,リモートワーク移行でスケジュールがずれ,開発が遅延するゲームが続出したりなど,ゲーム業界もさまざまな変化に見舞われた。同時にまた,欧米で「第9世代」とも呼ばれる新たなコンシューマ機が,例年に比べればどこか静かではあったが無事に船出している。今回は,自宅での執筆作業を貫き,犬の散歩とフィットネスバイクを使った運動しかしてこなかった筆者の目から見た,今年の欧米ゲーム市場の動きを振り返ってみたい。

ゲームイベントが軒並みデジタルに

 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)で幕を開けた2020年も,あと半月ほどで終わる。2021年以降の社会も,これまでとは違うものになっていくことは間違いないだろうが,世界的な感染の拡大に伴って,我々の日常やゲーム業界を取り巻く環境も,2020年の初めには想像もできなかったような規模で,あっという間に大きく変化した。

 本連載で初めてCOVID-19を取り上げたのは,2月3日に掲載した第635回「新型コロナウイルスがゲーム業界に与える影響」だった。筆者は1月にイタリアで行われた「デイメア: 1998」イベント取材から帰ったばかりで,イタリアでは筆者が帰った直後から感染拡大による移動制限措置がとられることになる。
 取材前にはすでにイタリアだけでなくスペイン,ニューヨークなどで感染が始まっていたのだが,記事を書いた2月初めの段階は,横浜に寄港したクルーズ船に対する日本政府の対応を,欧米メディアが他人事のように批判していた時期で,筆者もまだ遠い国の出来事だと捉えていたように記憶している。2月中旬には,Blizzard Entertainmentの「ハースストーン」の取材でロサンゼルス近郊のアナハイムに飛んだが,このときも入国制限などは行われておらず,日本から来たジャーナリストやインフルエンサー,Blizzardの担当者などと挨拶を交わした。

多くの大会が中止や延期,あるいはオンラインでの開催に変更され,大きな打撃を受けたのがeスポーツ市場だ。ただし,世界に先駆けて感染拡大の阻止成功をアピールする中国では,マスク着用を義務付けたうえで,eスポーツイベント「World 2020」を11月に上海で開催した。「World 2020」には,6000人の観客が集まったという
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 雰囲気が変わったのは2月25日,CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が,「状況はパンデミックに近付きつつある」と発表してからだろう。その翌日,筆者はMicrosoftが開催した「Ori and the Will of the Wisps」プレイイベントに参加しているが,振り返ってみると,これが2020年最後の従来型イベントになってしまった。
 2月28日には,毎年恒例のゲーム開発者会議Game Developers Conferenceを運営するInforma Techが,苦渋の決断を経て開催直前に延期を発表。詳しくは3月9日に掲載した本連載の第638回「新型コロナウイルスが与えるゲームイベントへの影響」でもお伝えしたとおりだ。さらに3月11日には,対応の遅さが批判されていたWHO(世界保健機関)がようやくCOVID-19がパンデミックに至ったことを宣言。3月13日にはアメリカ政府が緊急事態宣言を出して事態は急展開し,各国の医療が危機に瀕する様子が連日報道される,いわゆる「第一波」が世界中を揺るがせた。

 ゲーム業界にとってある意味,不幸中の幸いだったのは,Sony Interactive Entertainmentや著名なゲームジャーナリスト,例えばジェフ・キーリー(Geoff Keighley)氏などが,すでにE3 2020への参加見合わせを発表していたことかもしれない。E3 2020開催中止の正式発表を受けてキーリー氏は,5月から8月までの4か月間にわたって断続的にオンラインで関連イベントを開催する,「Summer Game Fest」をただちに発表しており,代替となるデジタルイベントへの移行はスムーズだった。

 4Gamerでも専用ページを設けて,「Summer Game Fest」関連のイベントで発表された新情報を紹介しているが,E3が開催される予定だった6月だけでも,6日の「Indie Live Expo 2020」に始まり,「Destiny 2 Reveal」(10日),「IGN Expo Day」(11日〜13日),「PS5 – THE FUTURE OF GAMING SHOW」(12日),「Escapist Indie Showcase」(12日),「Guerrilla Collective」(15〜17日),「PC Gaming Show 2020」(15日),「Future Games Show」(15日),「EA Star Wars: Squadron Reveal」(16日),「Upload VR Showcase」(17日),「Pokémon Presents」(17日),「Steam Summer Festival」(17日〜23日),そして「EA Play Live」(19日)などが立て続けに実施され,大規模ゲームイベントのオンライン化を強く印象づけた。

デジタル化が促進された2020年のイベントの中でも,とくに大きな存在感を発揮したのが「Summer Game Fest」だった。主催したジェフ・キーリー氏は,「The Game Awards」のホストでもある
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静かすぎる船出となった新世代コンシューマ機

 これまでのイベントでは,取材のために朝から夕方まで広いショーフロアのブースを駆け回り,夜は徹夜に近い作業で原稿を書いていた。一晩で記事を5本書ければかなり多いほうだ。独占的なインタビューやAAAクラスの注目作ともなれば担当者も力が入り,より多くの時間を費やすことになる。そのため,本来なら紹介したいゲームもあるのに時間がないという事態に陥り,結局,いくつかのタイトルを涙を呑んであきらめる。これは,おそらくどのメディアでも同じだろう。

 その一方,デジタルイベントなら,たとえ短い時間だとしても,ゲーム紹介は目の前の画面で行われる。向こうのタイムゾーンに合わせる必要はあるものの,スタッフを揃えられるならフォローは容易であり,そのため,今夏に行われた発表については,注目作ばかりでなく,相当数のゲームまでカバーできたと思っている。さらに,Microsoft TeamsやZoomといったWeb会議サービス使って,特定のメディアにさらに突っ込んだ情報を公開したり,開発者へ質疑応答を行ったりといった非公開オンラインイベントも盛んに行われ,筆者の体感だが,忙しさはこれまで以上だった。

ジャーナリストとして毎年何度もゲームイベントに参加していた筆者としては,行くたびに疲労困憊してイヤになってしまったことさえ懐かしく感じられる。ゲームイベントがデジタル化することの得失はいろいろあるだろうが,写真のようなメーカーとゲーマーの一体感はデジタルイベントに欠けている点だろう
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 本連載の第649回でもお伝えしたように,アメリカからヨーロッパにまで波及したBLM(ブラック・ライヴズ・マター/黒人の命は大切)運動がゲーム業界にも影響を与えた。他業種に比較して雇用人口が多いとは言えない黒人系のゲーム開発者にスポットライトが当たったり,BLM運動に共感したゲーム企業やデベロッパのチャリティ活動が行われたりしたことも記憶に新しい。
 今年の夏はBLM運動だけでなく,ポリティカルコレクトネスに絡んだ出来事も少なくなかった。Ubisoft Entertainmentのクリエイティブディレクターや,Paradox Interactiveが販売する予定の「Vampire: The Masquerade – Bloodlines 2」に携わる脚本家がセクシュアルハラスメントの疑いで解雇されるなど,ゲーム業界で働く女性の問題にスポットライトが当てられたのは,本連載の「欧米ゲーム業界に起きる#MeTooムーブメント」でお伝えしている。

 「Summer Game Fest」関連の最後の大きなイベントは8月の「gamescom 2020」であり,その終了を以て,ゲーマーの注目は市場投入の迫るPlayStation 5Xbox Series Xに注がれていくことになった。もちろん,「アサシンクリード ヴァルハラ」「コール オブ デューティ ブラックオプス コールドウォー」,そして「サイバーパンク2077」など,年末のショッピングシーズンに向けた注目作も,例年同様,顔を揃えている。

2017年の「Xbox One X」のローンチ当日の写真。今年はこうした光景が報じられることもなく,新世代のコンシューマ機市場は比較的静かに船出した
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 そして11月,欧米ゲーム市場はついに「第9世代」とも呼ばれる新世代コンシューマ機の時代に突入。ただ,個人的には少し失望感も覚えた。性能に比べて戦略的な価格帯であり,その点に文句はないが,供給量が少なく,購入を望む消費者に行き渡っていないようなのだ。これもまた,COVID-19によるグローバルサプライチェーンへの影響だろうか。

 そうしたこともあって,北米ではテレビや街頭での宣伝は控えられ,話題性の高さの割には,業界とゲーマーが一体になったお祭りムードに欠けている雰囲気だ。筆者自身も,今のところPS5を買える気配もなく,専用タイトルが出揃う来年以降に本気モードを出すかといったところ。

 以上のように,COVID-19の影響もあって,これまた例年とはかなり趣の異なるネガティブな総括になってしまったようだが,巣ごもり需要もあって,各ゲーム企業は好況を迎えており,10月の時点で,すでに昨年1年間の総売り上げを突破していたと報告する調査会社もある。ショッピングシーズンの結果はまだ発表されていないが,おそらく,史上最高を記録しているだろう。YouTubeの発表では,ゲーム関連動画やライブストリーミングも活況を呈している。この勢いのまま,よい形で2021年を過ごしていけることを期待したい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

 来週の「奥谷海人のAccess Accepted」は,筆者取材のため休載します。次回の掲載は,12月28日を予定しています。