【月間総括】第3四半期決算から見る,任天堂とソニーの差 –

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 今月は,任天堂とソニーの第3四半期(10-12月期)決算について触れたい。

 まずは,任天堂から話を進めるが,その前にNintendo Directについてだ。2月18日午前7時から配信されたNintendo Directでは,「スプラトゥーン3」の発表が最大の目玉だったが,「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の続編に関する紹介がなかったことを不満に思うファンもいたようだ。エース経済研究所では,Switchファミリーが2021年も好調が続くと見ており,決算解説で詳しく述べようと思う。

 任天堂の第3四半期決算は,上半期同様に非常に好調でSwitchの販売(着荷)台数は1157万台と前年同期の1058万台を上回った。第3四半期は例年ゲーム機市場がピークとなる時期だが,3か月の販売(着荷)台数が1000万台を超えており,2年連続でこの水準を達成したことは驚きである。

 ハードウェアの好調もあり,ソフト販売も前年同期比17%増の7587万本と伸びた。例年なら大作が発売される時期に,コロナ禍による開発の遅延の影響を受けたにもかかわらず,大幅に伸びた。2020年の年末年始商戦期を,自社の新規大型タイトルなしで乗り切ったのである。これも,読者には繰り返しになってしまうが,データ的にはソフトでハードが売れているようにはとても見えない。やはり「AAAタイトルでハードが売れるのは迷信」だったということであろう。

 となると,Switchというハードがソフト販売をけん引していることになる。任天堂にとって幸いだったのは,Switchのプレイスタイルが,コロナ禍で変わったライフスタイルに,とても良く合っていたということかもしれない。
 巣ごもり消費とよく表現されるが,自宅で娯楽を求めるとなると低価格で長時間遊べるゲーム専用機はとても相性が良い。さらに,リビングではテレビ,寝室では携帯モードで遊べるSwitchはこの新しいライフスタイルに最適だったことも,この爆発的なヒットに影響していると考えている。

図:任天堂の四半期業績の推移

決算短信より エース経済研究所

 このグラフは,任天堂の四半期業績をプロットしたものである。コロナ禍以降の業績は拡大傾向にあることが見て取れるだろう。
 Switchは,2017年に発売されてほぼ1年間,品薄だったが,それが解消された2018年の春以降,ピークアウト懸念がメディアでずっと取り扱われてきた。2020年の年末年始商戦期が好調だったこともあり,今年もピークアウトすると言われることになるだろう。

 Switchがこのように悲観的に見られているのは,任天堂がゲーム機の売れる要因を明確に把握できておらず,大失敗と大成功を繰り返してきたからだと私は考えている。

 わずか数年前,メディアや投資家の間ではゲーム専用機はなくなるという大合唱があったが,今は巣ごもりで専用ゲーム機が売れていると報じられている。とはいえ,今もクラウドゲームにとって代られるという声もある。

 一般に呼ばれる「時代の変化」というのは,生活様式の変化による隙間時間の発生,スマートフォンゲームとガチャビジネスモデルの相性の良さ,コロナ禍による在宅時間の長期化などであり,ゲーム業界への影響は予想以上に大きい。よって,ライフスタイルなどの激変が突然やってくるのが現実であることを考えると,業績の変動自体をなくすことは困難だろう。

 2021年は,ハードのマイナーチェンジがポイントになると私は考えている。過去のゲーム機を見ても,長寿命なゲーム機はマイナーチェンジを繰り返した。ゲームボーイやPS2,ニンテンドーDSなどがその例である。
 逆にマイナーチェンジがなかったWii,バリエーションがほとんどなかったPS4は,後半の販売を急激に落としている。これらは偶然とは思えない。

 そして半導体の不足である。任天堂は2021年度分については確保しているとコメントしているが,問題はそれがどの程度の数量かということだ。エース経済研究所では,最大で2020年度並みが必要だと思うが,必要量は水準次第で大きく変わるだろう。

 次に,ソニーである。
 注目のPS5は,450万台とPS4の初年度第3四半期と同じだったが,販売国数・地域を大幅に増やしたので,国別で見るとほとんどの地域でPS4を下回る出荷になったようだ。とくに日本は大きな市場にもかかわらず,出荷量が少なすぎるため一部店舗では大混乱を招いてしまった。日本ではPS4の発売が後回しになったこともあって,販売が低迷したことを反省し,今回は無理に他国と同発にしたと私は見ている。

 販売国数を増やすのであれば,当然生産台数も増やすものと考えていたし,以前紹介したジム・ライアン氏のインタビューのコメントから見ても,もっと多いだろうと当初は予測していたので,大変失望した。

 コロナ禍の現状では海外市場を直接調べることが難しいため,国内市場に限った話をすると,小売店が転売対策で厳しい抽選参加制限をかけたため,アーリアダプタ層が参加できる機会が少なくなってしまった。さらに出荷数が極めて少ないため,いくら抽選に申し込んでも当選できないという非常に厳しい状況にある。あまりにも当選しない現状に失望して,あきらめた人もいるだろう。
 
 これは個人的な印象で確証を得たわけではないが,入手困難な製品については一般層のほうが,長く待っているようである。Switchは,アーリアダプタ層が比較的入手しやすかったが,PS5はジム・ライアン氏が手に入れづらいと公言してしまったことも影響してか,ほとんどのアーリアダプタは入手できず,転売目的の商品と化してしまったようだ。

 この結果,日本のヒットチャートは,Switchのソフトが大半を占める状況になり,PSのゲームは駆逐されてしまった。ハードが売れるからこそソフトが売れるのであれば,適切なハード供給は必須である。エース経済研究所では,PS4をもっと増産したほうが良いとソニーに話したことがあるが,否定的な見解を示され,実際2020年の3月以降,PSハードは供給不足がずっと続いている。
 昨年10〜12月のPS4の国内売上(着荷)台数は8万台程度だった。エース経済研究所では,PS4の第3四半期の売上(着荷)台数は少ないだろうと見ていたが,グローバルで140万台であった。この比率はPS5と同じ5%である。つまり,米国のSIE本社の日本市場に対する評価は,全体の5%と認識していると見て良さそうだ。

 ソニー側からは繰り返し,「日本市場を大事にしている」というコメントをもらったが,任天堂のSwitchの日本向け販売(着荷)台数が世界供給台数の1/4〜1/5であることを考えると,その行動に疑問符が付く。ハードがソフトをけん引していることを考えると,日本にほぼ1年,まともにPSハードが供給されていないのは,問題があるのではないだろうか。そしてその結果が,ヒットチャートのSwitch寡占化の進行である。国内におけるPSブランドの凋落はエース経済研究所が予測したものであるが,実際にそうなると失望の念を禁じえない。

図:ソニーの四半期業績の推移

決算短信より エース経済研究所

 業績に話を戻そう。第3四半期は任天堂と違い,第2四半期比で増収減益である。立ち上げ期に赤字にならなかったのは,コロナ禍でステイホームのライフスタイルが据え置きゲーム機需要を押し上げていることが主な要因で,事業構造に大きな変化があったわけではないだろう。

 ソニー側からは,PS5の売上台数目標は2020年度760万台以上,2021年度1480万台以上の売上(着荷)台数を目指すとコメントがあった。先月も触れたように半導体不足で増産できない状況に陥っているようだ。
 ソニーのCFOである十時裕樹氏はPS5を戦略価格で提供しているとコメントしており,ジム・ライアン氏も入手困難と発言したこともあって,転売目的の購入を促してしまったようである。これに対応するには,増産して供給する必要があるが,来期はどの程度積み増せるか不透明としている。2021年2月時点で来期の増産が難しいという状況だ。

 ここで不可思議なのが,2020年度760万台,2021年度1480万台とする生産計画である。PS4並みであれば成功だとしてこのような数字にしたと思われるのだが,販売国数を増やしているのだから,本来の事業計画はこれ以上にする必要があったのではないだろうか。増やす計画にできなかったのか,やる必要がないと判断したのかは不明だが,非常に不可思議である。

 このまま転売が跋扈する状況が長引くと,ソフトウェアやPS Plusの会員数に影響がでてくるとエース経済研究所では考えている。ソニー側はPS4コミュニティを維持することで対応したいとしているが,PS4の供給を絞っていてハード販売が低迷するなか,できるかどうかは未知数だろう。

 一つ言えることは,すでに一部のゲームソフトメーカーから決算説明会で国内のハイエンドゲーム市場は来期も厳しいと明言する動きがでていることである。そのため,国内での開発を減らすとしており,ゲーム開発者はSIE上層部の意向に影響を受けそうな状況にある。

 現在のゲーム開発の人件費はゲームソフトが売れるかどうかよりも,開発難度に依存しており,開発者は高性能ゲーム機での開発を好む。開発難度の高いゲーム機で開発した実績こそが,自身の給料を高める手段だからだ。その機会が減ることは,日本のゲーム産業の長期的な成長に大きな影響を与える可能性があるのではないだろうか。

 ソニーからは,プラットフォーマーとしての責任を果たす姿勢が見えづらいだけに,2020年代の半ばから後半にかけていろいろな問題を引き起こしそうで私は憂慮している。この予測が単なる杞憂で終わることに期待したい。